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暑くも寒くもない『秋』は「ツーリングに最適な季節…」とは言うけれど、最近の日本の気候はちょっとオカシイ。季節をぶっ飛ばしてしまうこともあるみたいだ。でも、どんな気候であってもやっぱりバイクは楽しいんだよな。今回の旅であらためて感じた
写真=武田大祐:タンデムスタイル創刊から本誌を撮影。正統派ツーリング企画からタンスタ特有の変わり種企画で 歴代編集長のあられもない姿を撮影し続けてきたカメラマン
ライダー・文=横田和彦:16歳で原付免許を取得し、それ以降原付からリッターバイクまでさまざまなバイクを乗り継いできた。バイク好きが高じて、いつしかライターとして活躍することに。プライベートでもサーキット走行や草レースに参戦しているスポーツ走行好き
※本記事は2019年11月24日発行タンデムスタイルの企画をベースにしています。
今回のツーリングスポットはこちら
- 海ほたるパーキングエリア
- 四町作第一隧道
- いすみ鉄道/久我原駅
- 豊乃鶴酒造
- 外房黒潮ライン〜国道128号〜
- そば処・もみの木庵
- おせんころがし
- 華乃蔵
- 野島埼灯台
- お台場海浜庭園
- 洲崎神社
- 房総フラワーライン
- さんが焼き
- 海鮮料理
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東京湾を越えて魅惑の房総半島へ
「ツーリングに最適な季節はいつ?」と聞かれたらどう答えるだろうか。桜が美しい春や新緑が眩しい初夏、食べ物がおいしい秋が候補に挙がる可能性が高い。対して暑すぎる夏や寒い冬は敬遠されがち。そりゃそうだ。バイクはクルマと違って全身で風を切って走るのだから、ライダーが心地よいと思える気候がいいに決まっている。
そこで秋はいつからいつまでなのかを調べてみると、気象庁は9月から月までの期間だと定義している。そう、まさに今がベストシーズンと言いたいところだけど、みんなも感じているとおり、最近の日本の気候はちょっとオカシイ。暑さが長引いていたかと思ったら、ここに来て急に冷え込んできた。激しい変化はテレビでも伝えていたくらい。「待望の秋はどこへ行っちゃったの!?」などと嘆いていても始まらない。ライダーたるもの、走れるときが出かけるときなのだ。まぁ個人的にはツーリングの醍醐味は『季節ごとに異なる楽しみがあること』だと思っているから、気候は気にせず時間ができたら走りに出ちゃうんだけどね。
といっても時間が無限にあるわけじゃないから目的地の設定は大切だ。旅慣れている武田カメラマンと『限られた時間で走りを楽しめる場所』を相談しているときにピンときたのが房総半島である。編集部がある東京からアクアラインを使えばすぐに行けるし、魅力的な場所が数多くある。もちろん今までに何度も足を運んでいるが、そのたびに新しい発見がある土地なのだ。そうと決まれば話は早い。今回の相棒、Z250にまたがるとツインサウンドを響かせて首都高のランプを駆け上がった。
アクアラインの長い海底トンネルを抜けると、東京湾に浮かぶ『海ほたるパーキングエリア』にたどり着いた。ここまで来ると旅の気分が盛り上がってくる。個人的に好きなスポットなので、デッキに足を運び、コーヒーを飲みながらゆっくりと海を眺めることもあるのだが、今日は違う。少しでも早く向こう岸に行きたいのだ。一息つくとすぐにZ250をスタートさせ、海の上を通る道を抜けて房総半島に上陸した
「大多喜町に行ったことある?」と武田カメラマン。ないと答えると先導してくれた。大多喜町は戦国時代から城下町として栄えた場所で、所々に古い町並みが残っている。そこを走っていると、なんだかとても遠くまで来たような感覚になった。実際は出発して1時間そこそこしか走っていないんだけど。短時間でこういう気持ちになれるから房総半島はイイんだよね。
大多喜町には『本多忠勝・忠朝を大河ドラマに』という誘致のノボリがあちこちに立っていた。本多忠勝は徳川四天王の一人として戦国時代から江戸時代前期にかけて活躍した武将だそうだ。歴史に疎い僕はその人物像にピンとこなかったが、大河ドラマになることでこの地域が注目を浴び、町興しにつながることは想像できる。そんな歴史ある町並みを走れることに、幸せとほんの少しの誇らしさを感じた。
大多喜町には他にも旅心をくすぐるポイントがある。それはローカル線の『いすみ鉄道』だ。無人駅の久我原駅の近くで見たのだが、単線を走る黄色い電車の姿には鉄道ファンならずともひかれる。一生懸命走っている姿を見ているだけでホッコリとした暖かい気持ちになるのだ。
電車を見送ると再びZ250を走らせる。そろそろお昼どきだ。すると武田カメラマンが土日祝日にしかやっていない手打ち蕎麦屋があるというので行くことに。看板を頼りに進んでいくと山の中に学校のような建物が現れる。いや、これは小学校そのものだ。『そば処 もみの木庵』は廃校になった小学校を店舗にしているのだ。食事は教室で食べるのだが、掲示物などがそのまま残っているので懐かしい気持ちになる。そんな場所で食べる手打ちそばは歯ごたえがよく、作り手のやさしさまで伝わってくるようだった。入口横では地元の農産物の販売もしていたので、地元産のハチミツを購入。ちょっと高価だけど味が濃くおいしかった。花の種類によって味が違うそうなので、次は別のハチミツを買おうと思った。
そこから大多喜街道を南下していき横道に逸れると素掘りのトンネルが現れる。何だこの非現実感は。これを抜けるとどこか異世界へでも転送されてしまいそうな雰囲気。もちろん通り抜けても何も起こらないけどね。僕は短時間でクルクルと変わる景色を楽しみながらZ250を走らせた
海ほたるパーキングエリア

普段なら海を見ながらゆっくりコーヒーを飲む『海ほたる』も今日は小休憩だけで再スタート。少しモヤがかかっているけど雨の心配はない。休日はアクアラインを走るバイクも多い
四町作第一隧道

荒々しい素掘りのトンネルは異世界への入り口のよう。実は房総半島には雰囲気がある素掘りのトンネルが他にもある。特徴的な2階建ての向山トンネルや五角形の柿木台第一トンネルなど、どれも不思議な空間だ
いすみ鉄道/久我原駅

鉄道マニアにも有名なローカル線『いすみ鉄道』の黄色い車両を、自然に囲まれた無人駅・久我原駅の横で見送る。このとき乗り降りする人はいなかった
豊乃鶴酒造

大多喜町にある『豊乃鶴酒造』は200年以上前に創業したという老舗の地酒屋。大多喜城の名で販売されている日本酒は種類が多彩で人気商品だそう。こんな歴史的な建物が大多喜町には点在している
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黒潮が運ぶ海の香を感じながら走る
実は房総半島にツーリングに行こうと決めたとき、ある心配事があった。それは9月上旬の台風15号と10月中旬の台風19号による被害だ。とくに房総半島の南側は建物や道路などにかなり大きな被害が出たとニュースでも報道していた。そんな場所にツーリングに行ってよいのだろうかという疑問だ。…もしかして邪魔になるだけかも。
そんな悩みを抱いていたとき、千葉に住むバイク乗りの知り合いがアップしたSNSの情報を見た。「千葉の復旧は着々と進んでいます。これからは復興になります。みなさん、遊びに来てください!」。聞けば旅館などではキャンセルが相次ぎ、観光地も訪れる人は激減。房総半島の経済状況はかなり悪化しているという。そうなると必要なのは経済活動を活発にしてくれる人。簡単に言えば観光客だ。知り合いは続けた。「自粛などしないで、どんどん遊びに来てください」と。それを聞いて房総半島に行くことに決めたのである。ささやかながら復興のお手伝いができればいいなぁという想いを胸に。今の自分はボランティア活動などはできないけれど、被災地を訪れることで何かの足しになるならそれに越したことはない。
もちろん、現在も復旧中で観光客の相手はできないという所もある。屋根がブルーシートで覆われた建物が数多く存在する地域もあったし『災害復旧』の文字を掲げた自衛隊のクルマがひっきりなしに行き交う道もあった。まだ停電しているのだろうか、発電機で信号を稼働させている交差点もいくつかあったくらいだ。それらをテレビの画面を通してではなく、リアルに見ると複雑な気持ちになってしまう。しかし先ほど立ち寄った蕎麦屋やお土産屋さんのスタッフも言っていたが、ほとんど被害がなかった場所も少なくない。「普通に営業している店も多いのですが、風評被害でお客さんが減ると困るんです」。その言葉を聞いて、やっぱり来てよかったと思った。
僕を乗せたZ250は海沿いの国道へ出た。ここでは吹いてくる潮風の香りを愉しみながら、クルマの流れに乗ってスムーズに流す。こういう走りをするときにアップライトなネイキッドポジションが威力を発揮する。肩から自然と力が抜けてリラックスした気分で走ることができるのだ。またアイポイントが高いので景色を堪能できるのもうれしい。そしてアクセルワークに対して素直に反応し十分なパワーを生み出してくれる並列2気筒エンジンや、適度な安定感とコーナーでの軽快さの両方が感じられる柔軟性の高いハンドリングもツーリング気分をしっかりとサポートしてくれる。ストリートファイター・テイストの厳ついルックスでありながら、実際はめちゃ
めちゃフレンドリー。ホントによくできたヤツなのだ、Z250は。
今日の空は雲が多いのだけれど、ときおり顔をのぞかせる太陽が穏やかな海面に輝きを作る。Z250の走りにあわせるように流れていく光の粒を見ていると、日々の忙しい生活を送る中で少しづつ蓄積されてしまったストレスも一緒に流されていくように感じる。バイクで走ると肉体的には確かに疲れるのだけれど、人間の気持ちは元気になる。そんな効果が実感できるから、僕はツーリングに出るのだ。そんなコトを考えながら海岸沿いの国道を走る。すると武田カメラマンがあまり使われなくなった古い国道の絶景ロードがあるというので案内してもらう。またひとつ、知らない房総半島の顔を見ることができそうだ。
外房黒潮ライン〜国道128号〜

館山と勝浦を結ぶ国道128号。途中から外房の海岸線を走り、絶景を楽しむことができる
そば処・もみの木庵


『そば処・もみの木庵』は廃校になった小学校が店舗。メニューはかけそばやざるそばなど定番のもので、シンプルながら味わい深い。それを教室で食べるのもイイ感じだ。手打ちそば体験もやっている
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忘れられし旧道を抜け最南端の地へ
道幅は狭く路面は荒れている。横にトンネルをいくつも通る新しい国道が開通したため、こちらを通るクルマの数は少ない。切り立った崖の中腹を通る国道128号の旧道は、その昔ここが交通の難所であったことを痛感させてくれる道だ。ここに初めて来た僕は、その眺望に息を呑んだ。まさに絶景ロードである。
「このあたりは『おせんころがし』と呼ばれているんですよ」。こう語る武田カメラマン。ずいぶん可愛らしい響きだなと思いきや、調べてみると語源は悲しい物語だった。その昔、この付近一帯を領地としていた豪族がいたが、あるとき年貢を高くして領民の怒りを買った。領主の娘・お仙は、自分は贅沢せずともよいから年貢を減らすように父に訴えるが、聞き入れてもらえない。そして怒った領民が領主の殺害を画策していることを知ったお仙は父の身代わりとなり、夜間に海へと落とされてしまう。それを知った領民と父は悲しみ、改心してお仙を供養したという。諸説あるようだが、どれも悲しい結末であることに違いはない。そんな言い伝えを知ってからあらためて景色を眺めると、最初とは違う感情が湧いてくる。酷道に歴史あり。それを実感したひとときだった。
さらに海岸沿いの道を南下していき、武田カメラマンがよく訪れるというラーメン屋『華乃蔵』に立ち寄る。漁港の近くにあるこの店は台風の影響を受け、ちょうど今日から営業再開だという。シンプルでクリアなスープが特徴の醤油ラーメンを味わいながら、今回の台風による被害の大きさをあらためて感じる。実は台風 号のとき、横浜の外れにある我が家でも重量級の大型バイクを含む3台が倒れるという被害を受けた。精神的にショックだったが、房総では家を離れなければならない人も少なくないという話を聞くと、生活に支障がない自分はまだ恵まれているのだと思った。
そしてついに房総半島の最南端に位置する『野島埼灯台』に到着。青空の下であれば美しい姿を見せる白い灯台も曇り空では少し寒々しい雰囲気なのが残念。でも展望台のところに掲げられた『がんばろう南房総』のバナーを見ると、被害にめげず元気に働いている人々のことが思い出された。彼らの踏ん張りを見ると、逆に力をもらったように感じる。大好きなバイクでのツーリングを通してこんなコトを感じられるなんて、本当にありがたい。その後、少し北上し内房沿いのホテルにチェンクイン。のんびりと風呂に浸かりながら、今までとは違う房総半島の姿が見られた一日を振り返った。
おせんころがし

切り立った崖の中腹を通る旧国道128号線は『おせんころがし』とも呼ばれる悲しい言い伝えがある道。今回は行けなかったが、行川アイランド駅の近くにはお仙の石碑もあるそうだ
華乃蔵

南房総市千倉町にある『華乃蔵』は、古民家風の建物のラーメン屋。営業時間は11時~14時30分だが、麺やスープがなくなると終わり。塩と醤油のあわせスープが美味で、餃子もうまい
野島埼灯台

『野島埼灯台』は、慶応2年にアメリカ・イギリス・フランス・オランダの四ヶ国と結んだ『江戸条約』によって建設を約束された八つの灯台の一つ。野島埼は東京湾に出港する船舶にとって江戸時代から大切なポイントとして重要視されてきた
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最西端はニッポンの海の玄関口
二日目も天気に恵まれた。ホテルの駐車場からZ250を引っ張り出すとエンジンをかける。愛用のジェットヘルメットをかぶると澄んだ空気の中を走り始めた。今日は再び南下するルートを取る。昨日から走って感じたのは海沿いの地域の方が台風の影響を大きく受けているように見えること。少し見慣れてきたとはいえ、被害を受けた家屋が目に入るとちょっと心が痛む。
館山市内に入ると『洲崎神社』へ向かう。高台に社殿があるため、参拝するには鳥居をくぐったあとにある長い階段を登る必要がある。少し息を切らしながら登りきって振り返ると、木々の間から東京湾が望めた。ここは漁業の神や航海の神といった海の神さまが祀られている。静かな空気が流れる境内で参拝し、これからの人生の航海も無事にいけるように祈った。神頼みじゃないかと揶揄する人がいるかも知れないけれど、経験上バイクに乗っていると自分ではどうしようもない事態に遭遇する可能性が高くなることを知っている。だから最近はこれまで無事でいられたことの感謝と、今後の安全を祈願するように心がけているのだ。…といっても神社を訪れるのは年間でも数えるほど。熱心な参拝者じゃないから参拝の効果も半減するかも知れないけれど、それでもしないよりはいい。気休めかもしれないが、それも意外と大事なコトなんだよね。
その後、近くにある『お台場海浜庭園』に立ち寄る。房総半島の最西端に位置する三方を海に囲まれた公園で、キャンプやBBQ、磯遊びなどができる施設。東京湾の入り口が望めることから、江戸時代には幕府が砲台を建てたという記録もある。幕末に建てられた砲台を台場と呼ぶことから、ここも『お台場』と名付けられている。確かにここからは行き交う船の姿がハッキリ見える。黒船を見つけて大騒ぎになったこともあるのだろうか。そんな歴史に想いを馳せる時間も楽しい。
再びZ250に乗ると、今度は房総フラワーラインを走り抜ける。ここは長いストレートもあって気持ちよく走れる道だ。沿道には季節ごとにさまざまな花が咲くことも名前の由来になっている。またサーフィン関係のショップや洒落たレストラン、カフェなども並んでいるので、時間に余裕があれば立ち寄るといい思い出になるはずだ。とにかく見とおしがよく走りやすい道なので、速度が上がりすぎないように注意しながら走った。フルカウルスポーツと同等の潜在能力を秘めているZ250は、気付くと結構いいスピードになっていることもある。旅の終盤で何かしらのトラブルが起きたらせっかくの思い出が台なしだからね。
今日もお昼はおいしい海の幸をいただいた。いやー、贅沢な気持ちになるなぁ。新鮮な食材が使われている割に高価じゃないので、満足度はかなりのもの。そして近くの売店に立ち寄るとおみやげを購入。これで家に帰ってからの楽しみもバッチリだぞ。房総半島を巡る旅もまもなく終わる。一泊二日という短時間ではあったけれど、武田カメラマンの案内もあって知らなかった景色や場所を見ることができた。本当に奥が深い場所であることを強く感じた。またバイクで訪れることもあるだろう。そのときも地元の人々が笑顔で迎えてくれることを楽しみにしている自分がいる。豊かな自然と美しい景色、おいしい食事、そして温かな人々。房総半島が自分にとって癒やしの地であることを再認識した。そしてがんばれ、房総半島。応援しているよ!
お台場海浜庭園

東京湾を行き交う船が一望できる館山の『お台場海浜庭園』。あまり知られていないが、ここ房総半島の最西端。キャンプ場なので野営も楽しめるのである
洲崎神社

『洲崎神社』は長い階段を登った先に境内がある。自然災害が多い昨今、参拝することも大切に思えてくる。それにしてもこの階段を登るのは骨が折れるなぁ…
房総フラワーライン

『房総フラワーライン』は沿道に四季折々の花が植えられていて、季節を感じることができる道だ。アップダウンが少なく見とおしがいいのも特徴。広大な景色なので旅気分を満喫できる
さんが焼き

『さんが焼き』はアジ・イワシ・サンマといった魚を味噌と一緒に細かく叩いた『なめろう』を焼いた房総半島の郷土料理。素朴な味がたまらない一品である
海鮮料理

海の幸が豊富な房総半島は、どこで魚料理を食べてもおいしい。新鮮さがウリなので、海鮮丼や刺し身などがオススメだ。意外とリーズナブルなのもうれしいポイント
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※本記事は2019年11月24日発行タンデムスタイルの企画をベースにしています。

















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