Contents
関東平野の端っこにあたる茨城県の奥久慈は、古きよき日本の里山の風景が残されている。そこを寒風に喜ぶ空冷エンジン搭載のCB1100RSで駆け抜ける。かくして凍てつく寒さを覚悟して来たものの、意外にも昼間は暖かい。そう、季節は動いている。バイク乗りの動きが活発になる春はもう目の前だ。そんな気配を感じながら大自然を満喫してきた
写真=武田大祐:タンデムスタイル創刊から本誌を撮影。正統派ツーリング企画からタンスタ特有の変わり種企画で 歴代編集長のあられもない姿を撮影し続けてきたカメラマン
ライダー・文=横田和彦:16歳で原付免許を取得し、それ以降原付からリッターバイクまでさまざまなバイクを乗り継いできた。バイク好きが高じて、いつしかライターとして活躍することに。プライベートでもサーキット走行や草レースに参戦しているスポーツ走行好き
今回のツーリングスポットはこちら
- 常陸大子駅
- そば屋麦藁
- 大子おやき小学校
- 県道160号
- 久慈川
- なかざわ
- 八溝嶺神社
- 奥久慈パノラマライン
- 大円地山荘
- カフェ遊森歩(奥久慈珈琲焙煎所ルージュノワール)
- 月居温泉
※本記事は2020年2月22日発行タンデムスタイルの企画をベースにしています
ツーリングを記録するならRISERアプリ
RISERアプリをダウンロード「App Store」「Google Play」
のんびりと関東の最果て“奥久慈”をゆく
冬はツーリングの行き先に頭を悩ませる。大自然の中の絶景ポイントは、雪に包まれていることが多いからだ。しかも天気が不安定ときている。冷たい雨でも降ってこようものなら、全身が凍えてしまうことは目に見ている。バイクで走ることなど考えられない。こうなるとツーリング経験が少ない僕では目的地の候補が出ないから、旅慣れている武田カメラマンのアイデアに一任するしかない。といっても、今までのツーリングロケの行程はほぼすべて武田カメラマンが決めている。『それじゃいつもと変わらないじゃん』と言われても仕方がないが、今回は一応自分でも候補を見つけようと努力はしたんだよね。いい候補は見つからずじまいで、この季節のツーリングのプランニングは難しいと痛感した。
そんな中、武田カメラマンが提案しれくれたのは茨城県の北にある奥久慈方面だった。最初に頭に浮かんだのが“雪は大丈夫か?”ということ。北関東には寒いイメージがあるからだ。ところが山に入らなければ雪はそんなに降る場所ではないという。そのうえ、今年は暖冬。ツーリングは十分に楽しめると判断し、僕らは編集部をスタートした。天気は良好。風は少し強いが太陽のおかげで思ったほど寒さは感じない。常磐自動車道を走り那珂インターチェンジで一般道へ。国道118号を久慈川に沿うように北を目指す。
唐突に武田カメラマンが「納豆好きですか?」と聞いてきた。大好きだと応えると『舟納豆』という看板がある建物に入っていく。舟納豆とは、その名のとおり船のカタチをした入れ物に入っている納豆のこと。昭和26年の創業以来、国産大豆のみを使用し続けている専門店の製品である。納豆の香り漂う店内に入ってみるとさまざまな名称の納豆がズラリと並んでいる。その光景に圧倒されていると「試食をどうぞ!」と素敵なお姉さんが声をかけてくる。フラフラと近付いてみると、一口サイズの納豆が乗った小さなスプーンを渡してくれる。食べてみるとおいしい!「これはみどりごという小粒の大豆を使った納豆です」と説明。その後も次から次へと納豆が出てくる。7〜8種類ほどあっただろうか。聞けば大豆の種類によって製法や味付けを変えているという。あまりにおいしかったのでおみやげを購入した。これってお姉さんにまんまと乗せられたってことだよね。でも気持ちがいいプレゼンだったから悪い気はしない。奥久慈の民とのファーストコンタクトは気持ちを明るくしてくれた。
さらに北上していくと常陸大子駅にたどりつく。JR東日本・水郡線の駅なのだが、全線単線でなんともローカルな感じだ。水郡線は『奥久慈清流ライン』という愛称もある。ちょうど鉄橋のすぐそばまで行ける場所があったので、電車とバイクのツーショットを撮ろうと考えしばらく待ってみた。しかし一向に電車が来ない。不審に思いスマートフォンで調べてみると、昨年10月に上陸した台風19号の影響で橋が流されて、一部不通になっていることがわかった。まさかこんなところにまで被害がおよんでいたとは…。再開には1年以上かかる見通しで、それまでの間は臨時バスが運行されるという。せつない話だ。一日も早い復旧を切に願った。そうこうしているうちに12時をまわった。朝から走っているのでお腹が空いた。ツーリングのときは食事のタイミングが不規則になりがち。さっそくこの地方の名物である『常陸秋蕎麦』を食べに行く。ざるソバもよかったが、バイクで体が冷えている僕は暖かいソバを注文し堪能した。
常陸大子駅

茨城県北西の町、大子の常陸大子駅前にやってくれば、食堂やみやげ屋、旅 館などが並びとてものどかな風景。駅舎は2016年に改装されてモダンな趣きになっているが、2019年の台風で線路が被害を受けたため電車が不通で、現在は 代わりに走る臨時バスの発着所になっている

常陸大子駅近くの鉄橋では、今だ線路下にとさまざまな名称の納豆がズラリと流木や雑草が引っかかっている。台風19号の時はあそこまで水位が上がったのだろう。水郡線並んでいる。その光景に圧倒されていの不通を物語っていた
舟納豆

茨城といえば納豆。なかでも有名なのが舟納豆だ。国産大豆のみで製造され種類も豊富。試食コーナーにいたお姉さんの楽しい解説に触発されて思わずおみやげを大量購入
そば屋麦藁


茨城のブランド品種である『常陸秋蕎麦』は日本一ともいわれる品質で、香りや風味、甘みが豊富。味わえる店はノボリなどが目印になっている。そば家“麦藁”もそのうちの一軒。この時期ばかりは暖かいソバを注文した
大子おやき小学校


元小学校の木造校舎を使った“大子おやき小学校”も名所のひとつ。10種類のおやきが販売されていたので、食べたことがないりんごおやき≥セレクト。もちもちの皮と甘いりんごのコラボが新鮮だった
県道160号

大子町の街中を抜ける県道160号を八溝山へ向かいCB1100RSで駆け抜ける。2月上旬だが、小春日和と呼んでも差し支えないほどの陽気。地元の人も不思議がるほどの暖冬だ
ツーリングを記録するならRISERアプリ
RISERアプリをダウンロード「App Store」「Google Play」
久慈川の流れをたどり八溝山の頂へ
ソバを完食すると、今回の旅の相棒であるCB1100RSにまたがる。エンジンをかけると、左右に振り分けられたマフラーから低音が響く。じつはそのサウンドが非常によい。サイレンサー内部の調整などにより、低回転域では左右から微妙にズレたパルス音が響くのだ。そのため信号やクルマが多い市街地を流すのがとても気持いい。重心が低く、ゆっくり走っているときの安定感もバツグンだ。こんなバイクなら旅はさらに楽しくなる。
冬とは思えない暖かい日差しの下、久慈川に沿うようにCB1100RSを走らせる。袋田駅の近くを通りかかったとき、ふと川を見ると水面スレスレの変わったカタチの橋が目に入った。「沈下橋ですね」と武田カメラマン。その名のとおり、増水時に水の下に沈んでしまう橋だ。建設の費用が安くすみ、短期間で作れるなどのメリットがある。しかし低いぞ。水面から1mもないんじゃないだろうか。しかも木製のようだ。〝あれって通れるのかなぁ〞と思い見ていると、地元の軽トラックが横切っていく。さっそく橋へと続く細い道を川に向かって下っていき、沈下橋の入口へ。「おお〜これは」。クルマが1台通れるくらいの幅しかなく、欄干もない。川上側に設置してある斜めの木は流木よけか。多くの枯れ木が引っかかっている。昨年の台風の名残だろうか。僕は低速域で安定感があるCB1100RSの特性を生かして沈下橋をゆっくりと渡っていく。橋の凹凸がハンドルから伝わってくる。とにかく川面が近い。真ん中あたりで止まってちょっとだけエンジンを停めてみる。…静かだ。ヘルメットをなでていく風の音だけが聞こえてくる。〝気持ちいいなぁ〞。大きく深呼吸すると、旅に来たことを実感。おっと、ここは地元の人の大事な道だ。ジャマしちゃダメだよね。再びエンジンをかけるとゆっくりと沈下橋を渡りきった。
久慈川沿いの道に戻ると八溝山へ向かってアクセルを開ける。両脇には昭和を思い起こさせるような町並みが続く。途中にあった雰囲気のいい雑貨屋さんの前にバイクを停めてベンチで一休み。昭和のたたずまいを見せる建物と、最新モデルのCB1100RSが見事にマッチするのがオモシロイ。スマホに収めた写真をモノクロ調に加工してみると、何十年も前に撮った写真みたいになった。
さらに走っていくと、八溝山のふもとにたどり着く。地元の人によると、ひと昔前はこのあたりから徒歩で3時間ほどかけないと山頂に行けなかったらしい。今では県道248号線が通っているのでクルマやバイクで登ることができる。とはいえ道は狭く、急勾配。コーナーもタイトだ。ここで インチタイヤを装着したCB1100RSのフットワークが光る。大柄な車体がライダーの意思どおり右に左に軽快に動く。トルクフルなエンジンは極低回転からでも重量感ある車体をスムーズに加速させ、枯れ葉が落ちている登山道をグイグイと登っていく。
ほどなくして頂上の駐車場にたどり着いた。この時期は訪れる人が少ないようでクルマもほとんど停まっていない。バイクを停めて海抜1022mの山頂にあるお城を模した展望台へ。展望台からの景色はすばらしい!の一言。遠方まで山々が続くパノラマが広がっている。茨城県はここまでで、すぐそこは福島県になる。「雪が少ないなぁ」という武田カメラマン。確かに。本来ならこの季節、ここまでバイクでは来られないはずだ。バイクで走っているときは〝暖冬バンザイ〞という気持ちだったが、冷静に考えると温暖化やら何やらが気になる。このままだと夏は水不足になるかも知れないという不穏なニュースを思い出した。世の中うまくいかないもんだなぁ。
絶景を満喫したあと八溝山を下山。すると道の途中に設置してある立て看板の前で武田カメラマンが停まる。読んでみると、どうやら八溝山には金鉱があったらしい。奈良時代のころから知られていて、国家事業を助けるほどの財源になったようだ。ガードレールの向こうをのぞくと小さな看板に〝金山坑道跡〞と書いてある。近くに行くと岩の割れ目があり、穴が奥まで続いているようだ。金がたくさん取れたということは多くの人が集まり、町もかなり賑わっていたことだろう。そんな歴史を想いながら次の目的地へ向けてバイクをスタートさせた。
久慈川

八溝山に端を発し太平洋へと流れる“久慈川”。本流124㎞、支流も合わせると527㎞にもなる川には、山から清流が流れ込み秋にはサケが遡上するという。増水時に沈む沈下橋が何本かあり、この地方では『地獄橋』とも呼ばれているそうだ。バイクで走り抜ける地獄橋は水面がすぐ近くで不思議な感覚だ

足まわりに専用パーツを数多く投入し、スポーティなディメンションに設定されたCB1100RSは峠道が楽しい。 八溝山の荒れた路面のぐるっと回り込むようなタイトなコーナーもスムーズにクリアしてくれるのだ
なかざわ

道中、駐車場が満車のラーメン屋を発見。奥久慈ラーメン“なかざわ”だ。台風で店舗をやられ、県道160号沿いに移転。出汁が効いたスープがうまい上品なラーメンだった
八溝嶺神社

茨城県最高峰制覇! 県内で唯一標高が1000mを越える山で、頂上には八溝嶺神社がある。展望台からの眺望は美しく、眼下には関東と東北の境がドーンと広がっている
ツーリングを記録するならRISERアプリ
RISERアプリをダウンロード「App Store」「Google Play」
古きよき温泉宿から山中を抜ける林道へ
八溝山を下山すると今日の宿である〝月居温泉〞へ向かう。日が暮れてくるとさすがに風が冷たくなり、走るのがきびしくなる。早く温泉に入りたくなり旅路を急ぐ。袋田の滝の案内を横目に、国道461号を走っていくと目的の建物が見えてきた。月居温泉は日帰り温泉や食事などが楽しめる温泉宿だ。静かな町外れにある建物は素朴な感じ。地元の人々によって運営されているとあって、雰囲気は温かい。チェックインすると今日は宿泊客が少なかったからか、最大で3人まで泊まれる部屋に通された。その和室は広いけれど3人だとちょっときゅう屈かな、というサイズ。少し壁が薄いのはご愛嬌だ。
荷物を下ろすと着替えを持ち、寒風にさらされ冷えた体を暖めるべく温泉に向かう。脱衣所はそこそこ混んでいた。日帰り温泉が450円で楽しめるとあって、地元の人たちの交流の場になっているようだ。中に入ると、数人が湯けむりに包まれた内風呂に腰掛けながら談笑している。体を洗いながら何気なく会話を聞いていたが、どうにも理解できない部分がある。でもそれが遠くまで来たという非日常感につながるから不思議である。湯船につかると手足の先から解凍されていくような感覚にウットリ。たまらないねぇ。「この季節にバイクで走る人は少なからずMっ気があるよね」という知人の言葉を思い出すと、心のなかで“それが悪いか”と反論する。まぁ、いくら話しても理解できないだろう。冬のツーリングの楽しみは実際に体験してみないとわからないのだよ。僕は風呂を上がるとおいしい料理(しかもかなり量が多い!)を堪能しながら悦にひたっていた。ちなみにここの温泉は21時には閉まってしまう。地元の人が運営しているからだろうか? 周囲に店などもなくとても静か。僕はテレビがついた部屋でスマートフォンでSNSを眺めていたが、いつの間にか眠ってしまった。
日ごろの行ないがよいので(?)、翌日も快晴に恵まれた。今日は昨日通りかかったときに気になった“奥久慈パノラマライン”へ向かうことにする。地図を見ると国道461号から分岐して久慈川や国道118号と並行に走っている道だ。ただ曲がりくねり方が半端じゃない。この地を何度も訪れたことがある武田カメラマンも通ったことがないという。ちょっとワクワクしながら交差点を曲がる。「パノラマラインって言うけど、谷間で木が茂っているから何も見えないじゃん…」とやや拍子抜け。しかしそんな文句を言っているヒマはないほど曲がくねった道を走るのは忙しい。アップダウンもあればクルマ1台分の幅しかないところや、見通しが悪い場所などもあるので油断できないのだ。パノラマラインの語源については後に判明するのだが、少なくとも大自然に包まれている感は半端じゃない。
すれ違うクルマもほとんどなく、交通量はかなり少ない。しばらく走っていると木々の間から遠くの景色が望める場所が。“おおっ、ここはパノラマラインっぽいぞ”。そんなことを思いながらあるコーナーを曲がると、いきなり道端の駐車場に多くの乗用車が停まっている場所に出た。だが不思議なことに人っ気がない。武田カメラマンは「登山客ですかね」と言う。どうやら男体山へ登るハイキングコースの入口らしい。道路ばかり見ていて気づかなかったが、あらためて見回してみると上方に男体山をはじめとした山々の岩肌が見える。青空をバックにして、実にダイナミックな眺めだ。近くのトンネルの上には集落もある。こんな場所にも人が住んでいるなんて人間はスゴイなと思う。近くにある展望台に上がると周囲が深い山々に囲まれていることがわかる。すると突然コココココッ!という音が響いた。キツツキが木を叩く音だ。大自然を心ゆくまで堪能できる穏やかな気候に恵まれたことを感謝する。
「さっき通ってきたところに『手打ちソバ』の看板がありましたよね」と武田カメラマン。そこで食事にしようと決まり、CB1100RSの向きを変える。“大円地山荘”という手書きの看板に誘われて細い道へ入っていくと集落に行き着いた。見上げると男体山が間近に迫っていて迫力がある。この道はそちらに向かって行くハイキングコースにもなっているようだ。その手前にたたずむ大円地山荘は、築100年を超える古民家を使った店だった。雰囲気のよい店内に入ると入口に近いストーブを囲んだテーブルに腰を下ろす。奥には座敷もあるが、ライディングシューズを脱ぐのがおっくうで…。バイク乗りの悪いクセか。僕は店主であろうオヤジさんに暖かいしゃもソバを注文。武田カメラマンはきのこソバを希望したが「ごめん、今できないんだ」との返答。昨年、地元のきのこが不作で用意できないとのこと。そこら辺の八百屋で買ってきてもわからないんじゃないかと思うんだけど、正直なお店だなと好感をもった。笑顔が柔らかい女性店員が運んできたお通しは、菜の花ときゅうりとゆず巻き。どことなく春の訪れを感じたのは僕の気のせいじゃないのかな。湯気があがるソバが運ばれてくると、僕らはすぐに食べ始めた。手打ちソバは香りがよく、しゃも肉の歯ごたえがたまらない。アッという間に出汁が効いたつゆまで飲み干し完食してしまった。あらためてメニューを見ると、ここは季節の天ぷらも絶品らしい。今日はお腹いっぱいでムリだけど、次回来たときの注文は決まった。
お会計を済ませて外に出て駐車場に歩いていくと、上からバイクの排気音が響いてきた。見ると3台のバイクが駐車場へ入ってくる。ヘルメットを脱いだライダーに、この店にはよく来るんですか? と訪ねると「初めてなんです」という返事。あとで知ったのだが、ネットではけっこう情報が出ているお店だった。男体山をバックにCB1100RSの写真を撮ると、奥久慈パノラマラインに戻った。走っているとところどころ視界がひらけ、美しい景色が望めた。ツーリング気分が高まる。やっぱりこうじゃないとね! しばらく進むと民家が現れ、また自然に包まれてを繰り返す。そして間もなく終点が訪れた。県道322号に突き当たったところだった。そこにある案内板を見ると、奥久慈パノラマラインが完成したのは2001年と比較的最近のこと。観光のみならず点在する集落をつなぐ生活道路でもあるのだ。確かに総延長14kmを越える林道は見どころにあふれていた。武田カメラマンも「知らなかったな〜」と感心していた。日本もまだまだ奥深い。知らない土地を訪れる感動は、意外と身近に潜んでいるのかもしれない。
奥久慈パノラマライン

“奥久慈パノラマライン”の正式名称は『奥久慈林業地帯林道(袋田・男体・湯沢線)』。森林・林業の振興や点在する集落をつなぐ生活道路、観光の活性化などに役立っている

見よ、このダイナミックな景観! 山中を抜けていく奥久慈パノラマラインを走っていて出会った風景だ。目の前に広がる男体山の山々 は岩肌をむき出しにしていて荒々しい雰囲気。これぞニッポンの田舎道だ
大円地山荘

築100年の古民家を使った“大円地山荘”。手打ちソバや天ぷらのほか、ソバや抹茶のアイス、まんじゅうなどもある。すべて手作りで持ち帰りも可能だ

大円地山荘の裏をのぞくと男体山の雄姿。登山客にも人気の山らしいが、それにしても、ここ関東ですよね…

大円地山荘の常陸秋蕎麦は絶品。古民家の雰囲気もあいまってどこか懐かしい味がした。あぁ…、季節の天ぷらを頼まなかったことをあらためて後悔している
ツーリングを記録するならRISERアプリ
RISERアプリをダウンロード「App Store」「Google Play」
どこか懐かしい風景との出会いがある場所
僕らは奥久慈パノラマラインを引き返した。せっかく来たのになぜ? と思うかも知れないが、立ち寄りたいところがあるのだ。それは月居温泉側の国道461号から奥久慈パノラマラインに入ってすぐのところにある“カフェ遊森歩(ユーモア)”である。マスターがバイク好きで、ライダーズカフェとしても有名なのだという。実は朝方、通りがかりに場所と営業時間をチェックしていたのだ。14㎞ほどの行程を引き返していくと見える景色もちょっと違った。新鮮な気持ちになりながら山道を駆け抜ける。
カフェ遊森歩は木製のログハウス。大きな駐車場があり、バイクも多く停めらる。そこにCB1100RSを滑り込ませると、ちょうどW800に乗るライダーがマスターと一緒に店から出てきたところだった。彼は茨城県の海側に住んでいて、よくこの店に遊びに来るのだそう。彼いわくこの時期にバイクでここまで来られるのはめずらしいという。「いつもなら雪や凍結で来る気にならないんですよ。今年は異常だ」。その言葉にマスターもうなずき「あまりに天気がいいから昨日はモンキーやゴリラが 50台も来ましたよ」。50台!? 思わず聞き返してしまった。どうやらモンキー・ゴリラの愛好家たちが連なってツーリングしてきたようだ。「昨日来ていたら壮観だったかも知れませんね」と武田カメラマンと笑った。
ウッドデッキから建物を見上げ「ログハウスなんですね」と言うと「すべて私の手作りです」とマスター。ええっ! と驚いて話を聞くと、約10年かけて自前の山から切り出した木をチェーンソーで加工し組み立てたのだという。「昔、勤め人だったころにツーリングをしていたらログハウスの建築現場に出くわしたんです」。そこで組立工程に興味を持ち、同じような作りの家具を見て構造を研究。すると自分でも作れそうな気がして、翌日にはチェーンソーを買ったのだという。「若かったんですね」と笑うが、その動きは止まらない。所有していた山に入ると手近な木を切り出した。しかしここでも問題が。木がとても重くて運ぶことができなかったのだ。業者に依頼すると運ぶだけで数百万円かかるとも言われた。それはムリだと困っていると、知り合いの建築屋から中古のクレーン車があるかもしれないという鉄くず屋を教えてもらう。さっそく行ってみたが望みのモノはなかった。ところが近くにあるクルマ屋にクレーン付きのトラックが放置してあるのを発見。聞いてみると「明日処分しようと思っていた。欲しいならあげるよ」。これを運命と言わずに何と呼ぼうか。その後、自宅の裏手にログハウスを作ったマスターは、この地に本格的なログハウスを作ることを決意。基礎工事と電気工事だけは業者に依頼したそうだが、それ以外はすべて自分の手で作ったという。最初からカフェをやるつもりだったのかと聞くと笑いながら「完成するかわからなかったから」といい、見通しがついてから決めたと教えてくれた。
出てきたコーヒーはもちろん、ケーキもおいしい。味わいながらマスターとの楽しい会話が続く。話題がバイクになると、マスターはたくさんのアルバムを持ってきてくれた。訪れた人やツーリング先での写真がビッシリと収まっている。今、マスターは、ホンダ・スーパーカブ&NC700X、そしてビモータ・HB3の3台を所有している。バイク好きは話からも伝わってくる。そのため前の道を通るバイクを見ていることも多く、じつは僕が朝方に前を通過していたこともバレていた。僕は美しい奥久慈の大自然を眺めながらリラックスした時をすごせる、このカフェがとても気に入った。暖かくなったら表のデッキに陣取って、時間とともに刻々と移り変わる景色を眺めながらゆったりした時間を楽しもう。そんなことを考えただけでワクワクしてしまう。マスターにまた来ることを約束し、夕暮れが近い峠道に向けてCB1100RSをスタートさせた。
人との出会いが旅を忘れられないものにしてくれる。それを実感しながら夕日に染まる里山の風景の中を走っていく。…このまま帰ってしまうのはなんだかもったいないぞ。ふと後ろ髪を引かれるような、名残惜しい気持ちになった。奥久慈の人々との他愛もない交流がそう思わせるのだろうか。せっかくだから月居温泉に戻って温泉に浸かり、地元の人々の会話を聞きながらノンビリしちゃおうかな。そのあとでおいしい常陸秋蕎麦を食べて(なんなら軍鶏料理も)、帰宅が真夜中になってもいいじゃん。そんな誘惑に駆られてしまうのも奥久慈に魅力が多いせいだろう。山間に響く並列4気筒エンジンの重々しいサウンドが気持ちを決めた。よし、もう少しだけ自然の中を走って奥久慈を楽しもう。僕はCB1100RSをUターンさせていた。
カフェ遊森歩(奥久慈珈琲焙煎所ルージュノワール)


“カフェ遊森歩”はコーヒーや紅茶のほか、チーズケーキやアップルパイなどのスイーツ、カレー、ピラフなどの軽食がある。店内はログハウスならではのゆったりした雰囲気で、マスターとのバイク話も弾む
月居温泉

落ち着いた雰囲気の“月居温泉”は温泉と宿泊施設が隣接している。日帰り温泉に安く入れるとあって地元の人々の交流の場にもなっている。わりと早い時間に閉まるので、行くときは確認を

寒いなかを走ったあとの温泉はたまらない。湯は柔らかく、身体をやさしくほぐしてくれる感じ。神経痛や筋肉痛、打撲などにも 効くというからツーリングの途中に立ち寄るのにもよさそうだ

古きよきニッポンの風景、そしてやさしい人たちとの出会いとなった奥久慈の旅。最後は温かい夕陽の光に包まれ、大満足でCB1100RSとともに山を走り抜けていた
ツーリングを記録するならRISERアプリ
RISERアプリをダウンロード「App Store」「Google Play」

















この記事へのコメントはありません。